石のひとりごと

停年退職してもう12年,頭が白くなりました.

秦新ニ著『文政十一年のスパイ合戦』

山田風太郎『人間臨終図巻』を少しずつ読んでいて、シーボルトの項で、この本の存在を知り入手して読んでみた。

発刊された1992年度「本の雑誌」ベストワン、とのことで、確かに新たに著者により発掘されたオランダの資料による、いわゆるシーボルト事件の中身、裏、奥について描かれていて、大変面白かった。

ほぼ鎖国で、長崎の出島を通して海外の情報を得たい幕府と、日本の実情や情報が欲しいオランダが、解っていながらシーボルトを介して禁制の地図や図面、文献を互いに秘密裏に流していたのは、成る程と思ったが、最後の事件の裏話になる、薩摩藩と幕府の確執の話は、その方面の知識に乏しい者には少し唐突に感じられた。

若き日のシーボルトの能力の高さ、人間的な魅力もこの本を読むと印象深い。