石のひとりごと

停年退職してもう12年,頭が白くなりました.

高瀬正仁著『評伝岡潔・星の章』を読む

岡潔中谷宇吉郎などと共に、私たち’団塊の世代’にとっては若い頃から随筆等で影響を受けてきた科学者だ。私も学生の頃入手した『紫の火花』はいつも身近な書棚異に置いて時々見ている。最近、知人から評伝が面白いという話を聴き、図書館で前半の’星の章’を借りて読んだ。

著者の高瀬正仁は1951年生まれで、現在九州大学准教授。若い頃から岡潔に心酔しており、数学の理解が背景にあって、岡潔の辿った人生を丁寧な取材を基に描いている。多分、著者が長年蓄積した内容を一気に書いたものの集積であり、500頁余を読み始めると一気に読んでしまった。

’星の章’は2003年、’花の章’は2004年に刊行され、2008年に岩波新書岡潔ー数学の詩人」が刊行されている。

全体を読んだ印象としては、数学の困難な問題の解決へ向かう時期と人生の困難がほぼ同時期に起きており、これは岡潔の随筆等を読んだだけでは判らない。特に’広島事件’とされるものはこれまで知らない内容だった。知的状況が臨界状態にあると一時的には別の世界に遷移してしまうことが描かれている。

数学の内容自体は判らないものの、その問題の設定の仕方や解決の仕方を見ていると、どうもやはり全体のイメージをどのように描くのか、という視覚的な面が強いように思われた。

’星の章’は生い立ち(1901年)から、広島大を依願辞職した1940年頃迄を扱っており、’花の章’はそれ以降であり機会を見て後半も読んでみたい。