石のひとりごと

停年退職してもう12年,頭が白くなりました.

足し算引き算

地球惑星科学を考えるとき、近年はモデル屋の占める割合が多くなり、また若い人も計算機実験を志向する人が多いので、3Kの代表である地球化学はどうも疎んじられる場合がなくはない。心ある物理屋さんはしかしその重要性を認識しており分野にとって欠かせないものであることを知っておられる。同じ物性実験をやっても試料の質によって結果が大きく異なることがあり、その試料のCharacterizationはたいへん重要である。昔、物理系の若手のNさんが弾性波速度の温度依存性を実験したいので、よい試料はないかと聞かれて、均質、無発泡、等方的な玄武岩を紹介したら、ご自分でジープを運転して数100kgを採取され、それを用いて実験をされた。その結果を学会で発表する時に前の講演で、T大のF氏が同じ内容の実験を伊豆大島玄武岩を用いて実験をしたが再現性がない結果であった。くだんのNさんは再現性のある実験結果を講演された。伊豆大島玄武岩は発泡していたり、ガラス質部があったり不均質性が高いので再現性がなかったのだろう。餅屋は餅屋なので、試料を見てよく知っている人間だと物性の予測もある程度は分かる。で、地球化学だが、一般に元素は保存則だけなので、極端に言えば足し算引き算だから物理屋には興味がわかないかも知れないが、一方でいうと地球惑星の諸現象の制約条件として元素組成は決定的である。このことを分からないレベルの低い物理屋が席巻すると、あたりは不毛の地になるような気がするのだが、これは超偏見か。