石のひとりごと

停年退職してもう12年,頭が白くなりました.

予測性

若い頃、小沼直樹さんの雑文に刺激を受けていたが、その中に「ブラッグの戒律」というのがあって気になっていたが、その元の文章Freeman Dyson(1970)'The future of physics'Physics Todayを40年余り経ってから読んでみた。

今読んでも色褪せない内容を含んでいる文章で面白い。タイトルにあるように大きな問題についての率直かつ具体的な意見が書かれているのだが、最初のところに
'I shall emphasize experimental work and say little abouth theory. This is not because I consider theory unimportant.An elegant theory, combining mathematical beauty with physical truth, is the ultimate objective of all our efforts in physics. But if theories are the end-product of science, experiments are the driving force.' とある。

続いて、ラザフォードの後を受けて1938年にケンブリッジのキャヴェンデイッシュ研究所の所長になったローレンス・ブラッグの話だ。それまでのラザフォードによって築かれた高エネルギー物理学の拠点が崩れるのを放置して、第二次大戦後ライル等の電波天文学と、ヘモグロビンの結晶構造解析を行っていたペルツを支持し、後にDNAの二重らせんやパルサーの発見を生むなど夫々の新しい分野での強い拠点として生き残った過程を分析して、3つの「ブラッグの戒律」を抽出している。①過去の栄光は見捨てること。②流行を追わない。③理論屋がバカにするのを恐れるな。で、ダイソンは、彼の居たプリンストンをこれらの観点で評価している。(ここらは、北大低温研ニュース2007にKouchiさんが書かれている)

ダイソンの「物理の未来」だが、上の戒律の①、②とは抵触するのだが、高エネルギー物理学と、分子生物学について具体的な展開を予想しているのだが、かなり当たっているように思われ面白い。高エネルギー物理学ではRich manの加速器とPoor manの宇宙線観測では、どちらかというと後者に大きな期待をしていて、でも測定装置の能力向上が重要であることを指摘している。小柴さん達のKamiokandeはこの方向だ。分子生物学についてもたんぱく質核酸の分子構造解析について予測しており、だいたいその線で進行してきたように見える。環境問題についても触れているが、いずれにしても他の分野との関わりの中で物理学を進める多様性を健全なあり方と考えている。書かれた1970年以降で新たな分野というと計算機科学を含めた複雑系物理なのだろうか。高温超伝導のような物性物理も依然として現在の物理学者のかなりの割合を占めているようだ。誰かが書いておられたが、学問の進化も生物の進化のように、それまで未分化な部分から新らしい枝が出て最先端に進化ものだとすると、そのような枝は予測は難しいのだろう。