石のひとりごと

停年退職してもう12年,頭が白くなりました.

『古事記と小泉八雲』 池田雅之・高橋一清編著, かまくら春秋社

たまたまの行きがかりで,県立図書館で借りて,ポツポツ読んで,一応最後まで来ました.
全体は11編の作品が含まれ,229頁なので一編平均20頁程度で読みやすい.この主題について長年係わってこられた方々が蘊蓄・想いを書いておられ,面白かった.

一通りタイトルと著者: はじめに(池田);出雲神話と出雲人(藤岡大拙);私の『古事記』(岡野弘彦);日本神話とギリシャ神話(阿刀田高);神話と美術(真住貴子);生きるよすがとしての神話-ハーンとチェンバレンの『古事記』観(池田雅之);小泉八雲が歩いた『古事記』の世界(小泉凡;小泉八雲の愛した神々の国,出雲(牧野陽子);古代出雲の神話世界ー『古事記』と『出雲風土記』(瀧音能之);古代出雲大社の祭祀と神殿に想うー神話から見えてくるもの(錦田剛志);小泉八雲美保神社横山宏充);日本の原風景ーほんとうの日本「山陰」(高橋一清);あとがき(高橋一清).

印象に残った処を数点.
・藤岡大拙さんの稿では,出雲が古事記の神話の中で重要な位置を占める点についての歴史的な説明があり,1984年以降の荒神谷遺跡での多量の銅剣・銅鐸等の発見があり,弥生前期にこの地域が栄えていたこと,その後に山陽側が優勢になり凋落したこと.それと関連した出雲人の性格について書かれている.

岡野弘彦さんは三重県の神社の家に生まれて伊勢市皇學館大學の中学部で古典をみっちり教わったこと,1944年(20歳)で特攻隊に志願して父に勘当を云われたこと,空襲等を経験後,終戦で周囲がガラッと変わって納得できず,伊勢―熊野,伊勢―飛鳥―近江を歩く「古事記」の旅をして心が鎮まったこと.折口信夫内弟子になり,古典を広い眼で読むことに開眼される.この本が出た2013年に文化功労賞を受けられまだお元気のようだ.

・牧野陽子さんの作品は,出雲を旅した紀行文だけど,明るく穏やかな地域の雰囲気が良く書けていた.ハーンも慈しんだであろう宍道湖に沈む夕日,黄泉比良坂,斐伊川の流れ,出雲大社の参道,美保ケ関の景観,等々.ハーンの主題で学位を取られた(2012年)背景が生きている.

・高橋一清さんの項では,出雲がたたらで鉄が採れ米作に有利であったこと,国譲りの物語等について,「神話は史実をそのまま伝えるものではなく,ある事実を後世に伝えるに分り易い物語にしている」としています.美智子上皇后が詠まれた「国譲り祀られましし大神の奇しき御業を偲びて止まず」という和歌が出雲大社楽殿に掲げられていることが紹介されていました.

古事記の中で重要な位置を占め,小泉八雲が日本の中でもとりわけ慈しんだ出雲について多面的な見方が描かれていて楽しめた.